歌でつなぐ

第6回

初のソロ・リサイタル

大学助手になった24歳の時に、郵便貯金会館(現・メルパルクホール)で初めてのソロ・リサイタルを開きました。丹波篠山からは、地元の皆が貸切バスで応援に駆けつけてくれて、本当にうれしかったですね。

僕の音楽人生における、第三の人物ともいえる小林道夫氏との出会いは、このリサイタルからのご縁です。この時、僕の歌に合わせてピアノ伴奏をしてくださった小林氏は、バロック音楽に造詣が深く、その後も、リサイタルではいつも伴奏をお願いしています。

実は、このリサイタルのために誂えたベストが体にぴったり過ぎましてね。普通の服なら素晴らしい出来映えなんですが、歌を歌っていると途中から呼吸が苦しくなり、後半は背中の縫目を裂き、その上から上着を着るという荒業で乗り切りました。お客様は、まさか舞台の上の歌手が背中を裂いたベストを着て歌っているなんて思われなかったでしょうね。(笑)

そのリサイタルは大成功を収めまして、その年の大阪文化祭奨励賞をいただくことが出来ました。周りの人たちに支えられて、この時から毎年、年1回のリサイタルを続けることになりました。

「冬の旅」の始まり

20代最後の年に、シューベルトの「冬の旅」歌曲集の全24曲を、リサイタルで歌いあげました。
もともとこの歌曲集は、「40代を過ぎて、人生の色々な出来事を経験した人にしか、歌いこなすことは出来ない」と言われている大作なのですが、そう聞くと闘志が湧き、まだ20代なのに歌いたくなってしまうのが、僕の性格でして・・・。

29歳の時から今日まで、この歌曲集をずっと歌い続けてきましたが、シューベルトとこんなにも長い間、奥深く向かい合うことができて「本当に良かった」と、50代になった今、つくづくそう思いますね。

次回に続く